月刊ブランスリー鬼のデスク
ベーカリーにおけるカフェの役割
月刊ブランスリー2014年4月号の企画が決まりました。特集は「ベーカリーにおけるカフェの役割」になりました。
パンを生業とするパン職人の方々は、当然、パン食の更なる普及を強く願っていると思います。
人々がパンを食べて、初めてパン食の普及は進行していくわけですが、そのパンの食べ方は色々です。また、食べるシーンも様々でしょう。
日本でパン食普及が一気に進んだ革命的な出来事は、多分昭和40年頃(少なくても僕の田舎の茨城ではそうでした)、朝食に食パンを焼いて、バターを塗って食べるようになったことでした。パンが焼き上がると、2枚並んだ状態で、ポーンと飛び出してくるあのなつかしのトースターで焼き上がったパンに、バターの塊を、バターナイフでこすり付けても、なかなか解けずにうまく塗れなくて、そのうちにせっかく美味しそうに焼き上がったパンの表面が、ボロボロになってしまう憂き目にあったのは多分僕だけではなかったと思います。
そうこうしているうちに、トーストとサラダ、目玉焼きなどに、牛乳やコーヒーなどのドリンクがつく、あの日本の朝食スタイルが出来上がったわけです。このことが日本のパン食普及に果たした役割は計り知れないでしょう。
あとは、やはりおやつとしての菓子パンも、日本のパン食スタイルといえるでしょう。子供のおやつにあんぱんやクリームパンなどを与えておけば安心、みたいな感じがありました。僕が子供の頃は、山崎パンの「アーモンドカステラ」がお気に入りでした。
そして今です。ヨーロッパのようにハード系のパンを主食として食べてもらおうと、「夕食にパンを」の掛け声のもとに、この10年来、製粉会社などが中心になって、様々な提案がなされました。なかなか思うように進まなかったのですが、ここにきて、少しことが進みつつあるような感じがします。
本誌の2月号で、当社の記者が、千葉県のベーカリー、ツオップのカフェを取材させていただきました。オーナーシェフの奥様がカフェを仕切っていて、パンに対する思いを熱心に話していただきました。僕が取材したわけではないのですが、デスクとして、記事を読んでいくと、奥様がどれほど熱心に話してくださったのかが、手にとるようにわかりました。
ハード系のパンを、お客さまに買ってもらえるようになる秘訣は、考えて行動することだと感じました。そして、考えて行動することを持続することです。当たり前といえば当たり前ですが、このことに尽きると思います。
奥様は「試食が進化してカフェになった」みたいな趣旨の発言をされていました。記事を読んでいて、「おー」と思わず声を出してしまいました。かぴかぴのパンの切れ端を1日中おいておくだけの試食提供なら、逆効果なのでやらないほうがいいと、ツオップのオーナーシェフがある講習会で言っていましたが、まさにその通りだと思います。どうせ試食提供するなら、そのパンが最も美味しく食べられるような方法でしないといけないですよね。
ツオップでは、例えばドイツパンだったら、薄くスライスした状態で、ドイツパンに合う具材をのせて、スタッフがお客様に手渡しで提供しているそうです。小さくカットしてかごに入れて置いておくよりは、試食提供できる人数は少なくなりますが、かぴかぴのパンを多くの人に提供するより、興味を持ってくれたお客様に、最も美味しい状態の試食を提供する方が、はるかにいいに決まっています。
つまりツオップのカフェは、いろんなパンを最も美味しい状態で食べてもらうための場所なんですね。だから、パンは脇役のように振舞っていますが、実は主役です。すべてのメニューは、パンを最も美味しいく食べてもらうために考え抜かれています。
考えて行動して、結果が出れば、それが励みになり、さらに考えて行動することが、いい意味でのスパイラルに突入していきますが、結果が出るまでには多くの場合、長い時間がかかります。だから、結果が出るまでの間、考えて行動することをいかにして持続するか、についての方法論を取得することがポイントなんじゃないかって思います。それが、深い思いでも情熱でもいいし、なかなかわかってもらえなくても例えば奥さんだけはわかってくれるとかでもいいと思います。それは人によって様々ですよね。とにかく考えて行動することを持続するモチベーションを、結果が出るまで維持できればいいわけですから。
ということで、パン食普及の第3の大きなうねりを追っかけたくて、月刊ブランスリー4月号の特集は「ベーカリーにおけるカフェの役割」になりました。
[2014/02/21]