ベーカリー賛歌
鳥が大空を飛ぶようにパンを作る人
もう何年も前だが、あるパン職人を取材した。彼は、朴とつで、多分不器用で、多分頑固な人だ。5〜6坪の狭い売り場にパンが溢れんばかりに並んでいた。そのうちのいくつかを食したが、そのすべての組み合わせが互いにオンリーワンだった。そして、店のすべてのパンが、互いにどのパンとも明らかに異なる個性を持っていることが容易に推測された。
そのパン職人は、呼吸をするようにパンを作っていた。パンを作ることが自己実現の唯一の手段であり、パンを作らなければ自分の精神が活動しなくなってしまうかのようだった。彼からパン作りを奪ったら、もう彼ではなくなってしまうだろうと思えた。
そして、鳥が大空を飛ぶようにパンを作る人だと思った。鳥は飛ぶのを止めたら生きていけない。彼もパンを作るのを止めたら、生きていけない。
パンをそんな風に作る人は凄いと思った。
(写真は、京都府宇治市のベーカリー、たま木亭)
[2014/05/02]